【資料5 】 イギリスの場合 下院の公正賃金決議

イギリス労働者編 労使関係ハンドブック 日刊労働通信

公正賃金決議の基本目的は、政府を相手とする請負業者をして、その雇用する労働者の賃率、労働時間、雇用条件を交渉機関または標準慣行によって一般に確立 されているそれらより劣ることのないようにさせることにある。イギリス労働史上このような決議がなされた例が三度ある。その最初は、1891年2月13 日、下院を通過した決議であり、1909年3月10日にはこれにとって代わる決議がなされ、さらに1946年10月14日決議(現在も効力を有する)がこ れにとって代った。この公正賃金決議それ自体は、制定法上の効力を少しも持たず、政府を相手とする請負業者が雇用する労働者の利益を擁護する方法について の議会の意向を表現したものに過ぎない。しかし、ながら、この決議に謳われている原則は、次に述べるような形で特定の法律に具体化されてきた。

1、1891年の公正賃金決議
1891年の決議の狙いは三つある。すなわち、a)苦汗労働委員会によって暴露された悪弊を防止すること、b)政府を相手とする請負業者がその請負った仕 事を下請に出すことによる酷使を避けること、c)「世間並みの」賃率を支払うことにある。その目的は、悪質な使用者によって不当な値下げを強いられないよ う下請業者を保護すること、および政府を相手とする請負業者の仕事に従事する労働者が受取る賃金が善良な使用者から支払を受ける同種の職業の労働者の賃金 を下回らないようにすることにある。
1907年8月、大蔵省は、この決議をもっと画一的かつ効果的に適用させる方法を検討するため、契約当事者になっている各省の代表からなる委員を設けた。 この委員会の到達した主要な結論は、次のようなものであった。すなわち、政府契約における公正賃金条項は、政府を相手とする請負業者に政府との
契約にかかる作業がおこなわれる地域に働く当該労働者に世間並みの賃率を支払うことを義務づける条項であるが、この公正賃金条項という用語は、そのまま存 続させるべきであると。しかし、同委員会はまた、公正賃金決議の内容については、一般に告知すべきであり、政府を相手に請負契約を結んでいる会社の社名お よび住所を公表すべきであり、同じ職業に影響のあるすべての契約条項はあらゆる省間に画一的であるべきであり、調整を行なうため契約当事者である各省の代 表からなる委員会を設けるべきだと勧告した。

2、1909年の公正賃金決議
1909年の決議は上記の勧告にもとづくものであるが、そこでは次のようなことが謳われている。すなわち、政府を相手とする請負業者は、その作業がおこな われている地域の職業に関して使用者および労働組合によって一般に承認された賃率および労働時間(または、このような承認された賃率および労働時間がない 場合には、実際に善良な使用者が一般に認めているもの)よりも劣らないそれらを提供すべきであって、もしそうしない場合には罰金またはその他の刑罰に処せ られること。この決議は、政府契約に関して下請および又貸が禁止される場合を規定し、かつ下請が許可される場合には、公正賃金条項を遵守する責任を政府を 相手とする請負業者に課した。1909年の決議案を提議するに当って、政府のスポークスマンは次の点を明らかにした。政府は賃率を設定すべきだというので はなく、関係職業に一般におこなわれている賃率、とくに労使間の交渉によって設定された賃率を公正賃金として受け容れるべきだということ、すなわちこれで ある。

3、公正賃金諮問委員会
1909年6月、大蔵省は、政府契約についての公正賃金条項に関する諮問委員会を設けた。同諮問委員会は、契約当事者となっている主要な省の官吏をもって 構成された。その任務は契約当事者となっている省に対して、1909年の決議が最もうまく実施される契約条項の形式およびそうした契約条項を確実に遵守さ せる方法について助言すること、また一般的にいって政府を相手とする請負業者に公正賃金を支払わせる問題を処理するに当って、関係各省の足並みをそろえる ようにするのに役立つと思われるような勧告をおこなうことにある。同諮問委員会は、仲裁裁判所ではないので、公正賃金に関する行政は、
同諮問委員会がときおり提供する助言に従って契約当事者である省がなすべき事項であった。
関係各省が用いる公正賃金条項の一般的な型については、この諮問委員会が勧告したのであるが、それによると、請負業者は賃率および労働時間を公正賃金決議 に謳われている通りにしなければならない義務を負うことになっている。ただし、「罰金またはその他の刑」という字句は、法律上争いを伴うので、削除され た。同諮問委員会はまた、政府を相手方としないが、公金の支出とかその他政府の考慮を必要とする契約の場合には、その関係各省としては、個々的にみて必要 とされる修正を施したうえ、公正賃金条項を挿入すべきだと勧告した。

4、1946年の公正賃金決議
その後状況が変化したことと合同交渉機関によって締結された協約が大々的に拡張適用をみたことに照らし、1937年、政府は公正賃金決議をさらに再検討す ることに決めた。この仕事は公正賃金諮問委員会に課せられたが、同諮問委員会は第二次大戦勃発時には、その作業をまだ終っていなかった。しかし、1994 年にいたり、いままでそのままになっていた公正賃金に関する新決議の草案に関して、イギリス経営者連盟と TUcの間で申し合せが成立した。それまで未審議のままに放置されていた理由は、1940年の雇用条件・全国仲裁令が、この新決議が果そうとしていた目的 の達成に役立っていたからである。
1946年10月14日下院において採択された公正賃金決議の主要な特徴を示すと次の通りである。
1) 請負業者は、その地域における職業とか産業について代表的な合同交渉機関とか仲裁によって確立されたような雇用条件、このような確立された標準がな い場合には、従事している職業とか産業の一般的な状況がその請負業者の場合と同様なその他の使用者が認めている賃率、労働時間およびその他の雇用条件より も不利でない雇用条件を提供しなければならないことになっている。一九〇九年の公正賃金決議では、「善良な使用者」“good employers”が認めている賃率と労働時間を標準とすることもあるとされていたが、この字句は削除されている。
2) 1946年の決議では、請負業者は、「公正な」“fair”賃金だけでなく、「公正な」作業条件を維持し、かつおよそ請負にかかる仕事がなされつつ ある工場、職場またはその他の場所に雇用する労働者のすべてにそれらの条件を適用しなければならないことにはっきりとなっている。請負仕事を出す省は、入 札のさい呼び出しをかけるための会社リストに業者をあたらしくのせるには、それに先立って、その業者に対して、その者が少なくとも過去三ヵ月間誠心誠意決 議にいう一般的な条件に合致した行動をおこなっていたという証拠を出すよう要請しなければならないことになっている。
3) 1909年の決議では、請負い仕事を出す省の大臣は、公正賃金が支払われているかどうかを判定するよう求められた場合には、そうしなければならな かった。ところが、1946年の決議では、このような問題はすべて、労働相に報告することになっており、交渉または調整によって処理されない場合には、仲 裁に付託されることとなっている。
1909年の決議では「罰金もしくはその他の刑」に処するという字句があったが、これは削除された。
4) 請負業者は、その雇用する労働者に対して労働組合に加入する自由を認めなければならないし、また契約の履行にあたって下請業者を使う場合には、その下請業者にもその決議を遵守させる責任を負わなければならない。

5、公正賃金決議の拡張適用
当初、下院の公正賃金決議は、政府との契約の場合にのみ、かかわりあったが、その後ときがたつにつれてこの決議にもられた原則は大々的に拡張されてきた。 この決議は、地方行政機関との契約には強制適用をみずにきたが、政府は地方行政機関に対して政府との契約との場合にとられている政策を採用するよう勧告し た。この決議は、現在、どこにおいてもというわけではないが、一般に実施をみている。もっとも、地方行政機関のうちには、政府との契約の場合に用いられて いる条項とは多少異なる独自の公正賃金条項をもっているものが多いが、国有産業においても同様、公正賃金決議にもとづく条項を契約内容に挿入することが一 般的慣行となっている。
この決議にもられた原則はまた、譲渡、貸付、補助金、保証、許可などによって産業または公共体を援助する多くの法令に具体化されてきた。これらの法令に定 められる従業員の賃金および労働条件は、通常の慣行として、省が締結した契約に差し当り適用される下院のいかなる決議にも即した契約のもとで遵守されなけ ればならない賃金および労働条件よりも劣ってはならないことになっている。

6、疑義および苦情処理手続
公正賃金決議そのものには、疑義があれば、労働相がそれを独立の審判所に付託するものとされているが、それ以上の疑義および苦情解決手続は定められていな い。実際には、請負業者がその決議を遵守していないなという申立は、契約当事者である省が受理しても労働相が直接受理してもよいことになっている。いずれ の場合においても、苦情があれば、その請負業者に知らせ、公正賃金決議に定められた義務を忘れないよう注意を促がす。労働相は、必要な場合には、調整に よって労使間の意見の不一致を円満解決するよう努力する。このような解決がえられないとか、苦情が撤回されない場合には、その疑義は独立の審判所(通常は 労働裁判所)に付託して解決を図る。苦情提起人には、請負業者が決議に違反しているということを労働裁判所に認めさせる義務がある。労働裁判所の手続は労 働裁判所法にもとづいて付託された争議の場合と同じである。ただし、その場合、労働裁判所は、雇用条件の明細について裁定を下すのではなく、請負業者が決 議に違反しているかどうか、どの程度まで違反しているかをきめるだけである。労働裁判所の指摘した違反を是正するために、契約上の権利を行使して、どのよ うな措置を講ずるかを考究することは、契約当事者になっている者の義務である。提出された苦情および処理された苦情に関する情報は、契約当事者になってい る省の全部に回覧されることになっている。

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